かつてNHK特集(だったと思う)で「ケネディはなぜハーバード大学に進学できたのか」という番組が放送された。当時はまだ学生だったから、もう半世紀以上昔のことで、番組名も出演者の名や肩書なども記憶はあやふやだが、その内容はとても衝撃的で今でも鮮明に覚えている。
番組は、ハーバード大学への進学を目指す2人、即ち、後に第35代合衆国大統領になるケネディと、ある女子生徒とを比較する形で構成されていた。
よく知られるように、ケネディは背骨に疾患を抱えており、高校も休みがちであったうえ、成績もそれほど優れたものではなかった。対する女子生徒は地方の高校で秀でた成績を収めていた。日本的な感覚でいえば、文句なしに女子学生が入学すると思うのだが、結果は逆で、入学が許可されたのはケネディで、女子学生は不合格だった(と言っても、彼女はやはりアイビーリーグの名門校であるイェール大学(と記憶する)にしっかりと進学したのだからさすがだ)。
その理由を追い、日本の入学者選抜との違いを明らかにするのが番組の主題だったが、その中でハーバード大学の幹部(入学者選抜室(アドミッション・オフィス)の責任者だったか)が語った言葉が忘れられない。彼は両者の合否が分かれた理由をこう述べていた。
「ハーバードは教育機関であり、優れた教育を行うことで、学生を大きく発展させ、彼ら/彼女らをこれからの社会を担う人材に育てることを重要な使命としている。本学の教育等を通じて、そういう人間に育つ可能性のある学生が入学することを望んでおり、そのような学生を選抜している。
この観点からすると、ケネディは高校時代の成績は特に優れているとは言えないが、様々な活動で中心的役割を担ったり、エッセイコンテストで入賞したりするなど、可能性に満ちており、入学後の発展が多いに期待できると思われた。
一方の女子学生は、高校時代の成績は確かに優れているが、他の活動に積極的に取り組んだ様子も見られないことから、成績もひたすら勉強のみに取り組んだ結果に過ぎないと思われ、これでは入学後も今より大きく伸びることは期待できないのではないか、という判断をしたため、このような結果となった。」
ハーバード大学は、既にそれ以前に、試験(アメリカでは大学が個別に学力試験を課さないので、全米での標準テスト)の成績が自分より悪い者が合格したのは人種に配慮した「アファーマティブ・アクション」のせいで、これは法の下の平等に違反し違法だ、として争われた、いわゆる「バッキー裁判」を経験していた。大学はこの裁判において連邦最高裁に対して
「ハーバード大学で、学術的な優秀さが入学審査の唯の基準であったことは一度もない」
と述べた文書を提出(1978年)しており、入学者選抜における方針は一貫しているのだが、当時、そのようなことは知る由もなかった。
ともかく、本番組を通してペーパー試験のみで合否が決まる我が国の入試(しかも、当時はこれが高校生に対する試験か、と非難されるような難問・奇問も多かった)との彼我の差の大きさにただただ驚き、このようなハーバード(アメリカ)型の選抜方法は日本でも実施されるべきではないかとの考えを抱くに至ったことを覚えている。
その後、入学者選抜は志望生徒の「過去・現在・未来」を総合的に判定して行うべきとする「エドミストンの法則」も知ったことで、その考えに一層傾倒することになり、各大学はこのような選抜法を実施することを目指すべきだと訴えたりもしたが、公平・公正の確保という大義に基づいた、我が国のペーパー・一発試験に対する強い信頼(信仰にも近い)の前ではそれらはほとんど効果がなく、壁の厚さを思い知らされてきた。
入試改革の柱だ、と鳴り物入りで進められた「共通テスト」において英語試験での民間試験の活用や国語等での記述試験の採用が断念されたということはまだ記憶に新しいが、その理由も「公平性・公正性」から実施が困難・不適当ということが主であり、入試に対する大学の明確な姿勢・姿勢は見られなかった。しかも、それらを共通テストではなく、代わりに各大学で実施すべしとされた。一体、なぜ大学がそのようなことを求められなければならないのか不明だ。
そもそも、大学入試とは何のために行うのか。大学が高校教育課程の習熟度を個別に判定する必要はどこにあるのか。それらが曖昧なままであることに納得がいかない。
そして、合格判定には高校時代の成績・活動の把握や志望動機・学習意欲の確認等こそが肝要だと思うに至った立場からするとこのような結論は全く理解不能だが、それが出され大学に対応を求めることになるのも「テスト信仰」の前では当然なのだ。
今後、国際的な学生獲得競争が激化することが予想される中、このような「ガラパゴス的」な選抜を続けていて「優秀」な学生を獲得できるのか、「国内大学の」「国内大学による」「国内大学のための」入試を続けていいのかと、退職後も不安は募るばかりだ。

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