前書き

 筆者は長年に渡り教育行政に携わり、定年を迎えた元文科省職員だ。

 文科省が所掌する分野は教育から文化・スポーツまで及ぶ世界的にも極めて幅広いものだが、幸い?にも私はそのほぼ全分野・局(官房・生涯学習・初等中等教育・高等教育・学術研究・スポーツ・文化)での業務を経験した。また省外において地方教育委員会をはじめ、国私立大学・独立行政法人に加え、他省庁(内閣府・総務省・外務省)で勤務する機会も得た。

 本人の希望が有るか否かにかかわらず、どこか特定の分野での経験が長くなる者が多い中、このように幅広い分野を経験するのは数少ない例と言って良いだろう。しかも、局間で連携する場面が多くないため、同じ省内でありながら他の局・分野の業務について承知するのが難しいのが実情だ。
(もっともこれは「課あって局なく、局あって省なし」とよく言われるように、多くの省(役所に限らず民間企業も含む?)でも見られる状況ではあるようだが。)

 そこで、貴重な経験を積んだ身として、それらの中での印象的・特徴的な経験・出来事について書き残すこととしたい。それが一般の方が各局業務の大まかな状況を知る契機になり、省内の人にとっても他局の業務の特色を理解する助けになるなら幸いだ。

 ただし、中島敦の「文字禍」で老博士が述べたように「<書洩らしたこと>が<書かれなかった事は、無かった事>」とされるのを気にする余り、何でもありのままに記すようなことは避けたい。

 むしろ、個人的な思い出・体験談で終わることのないように、できるだけ現在の教育行政にも共通する事項やそこにある課題が想起されるよう配慮することで、野家啓一氏が「物語の哲学」で論じた、「<解釈学的変形>を施した上での<間主観的な歴史>」に少しでも近づいたものにしたい、という過分な望みを持ちながら記載に努めたい。

 

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