(入試という試練)
今年も、大学入試の季節がやってくる。
多くの受験生にとって、それまでの高校生活でどのような勉強・生活態度や学校外での活動状況であったか、将来の目標実現に向け、志望大学に対してどの程度の進学意欲や熱意を持っているのか等とはほとんど無関係に、「公平性・平等性」を担保するためとの美名の下、たった1日の、数時間のペーパー試験の結果だけで合否が決められるのだから、対策に必死になるのは当然だろう。
この、半ば理不尽な制度が我が国では当然のこととして広く受け止められている。
最近では推薦やAO入試といった選抜方法が増えており、筆記試験によって合否が決まる者の比率は半分以下になっているというが、それでもこれが依然として主要な選考方法であり、多くの受験生がその対応に追われていることに変わりはない。
(過去問研究)
このため、少しでも合格可能性を上げようとして、多くが通常の勉強に加え、志望校の過去の出題や傾向を調べ、その対策にも努めることになる。こうした受験生の需要に応えるため、昔から「赤本」等の大学別入試過去問題集が出版されている。
最近ではネットを通じてそれらが手軽に入手できるようにもなり、便利な時代になったと言えるが、果たして、これらを通じた対策が必要・有効とされているのは、入試で合否の鍵を握るのは難易度や記述問題の有無・分量等以上に、大学ごとの出題の特色・差への理解・対応の優劣だとされているからだ。
大学入試とは本来、受験生の中から当該大学において実施される教育研究を受けるに足る「学力」を有している者を選抜するために行うものであるはずである(本来は、当該大学に進学する「意欲」や「熱意」、「過去の努力」がどれほどあるかも重要な判定材料になるべきだが、残念ながらそれらが検証されることはない)。
これを踏まえれば、各大学における教育の内容・水準に差がある以上、それに応じて入試の形式・内容・水準に違いが生じるのは当然であり、それらへ備える必要があるのは不可避だと言えよう。
(大学ごとの特色)
そこで、実際にどのような違いがあるのかを、代表的な国立大学である旧帝国大学から4大学(東京・京都・大阪・名古屋)を対象に、入試科目のうち、進学後の全ての教科の基礎にもなる理解力・表現力に係る国語と、やはり文系理系を問わず多くの大学・学部で必須とされている英語について調べてみよう。
赤本を使って、各大学の問題の中で他大学のものと比べて特徴的と思われる出題形式・内容を抽出してみるのだ(以下、< >内は赤本の記述。)。
<国語>
まず、国語だ。
東京大学は<現代文2題、古文1題、漢文1題の計4題という構成が続いている>。解答形式は<全問記述式である>。
また、現代文1問目の<100~120字の内容説明を除けば、字数制限はない。したがって、指定された解答欄の大きさからおおよその字数を判断することになる>。
現代文の1問目は<例年、抽象度の高い論理的文章が出題されている>。<その内容は哲学や科学思想史、言語や美術を含めた文化論、文明論が主なものである>。
設問は<論旨をきちんと把握できているかどうかを問う説明問題が中心である。特に本文の論理展開上重要な箇所についての説明問題が多い>。
なお、<2000年度を境に、東大の現代文は大きく変化した。独立の大問としての200字作文が廃止され、そのかわりに100から120字で説明する問題が設問のひとつとして出されるようになった>。
現代文の2問目は<文学、特に韻文を扱った文章が多い>。<(随筆のような)感性的文章と論理的文章がほぼ交互に出題される傾向がみられる>。
設問は<説明問題が中心である>。<感性的な文章では比喩表現の具体的説明や筆者の表現意図を問うものが目につく>。
一方、<論理的な文章については(現代文の1問目と)傾向は大して変わらない>。<ただし、(1問目よりも)難度は高い>。
古文は<出典は中古と中世が中心となっている>。<ジャンルも物語と説話が多い>。
設問は<口語訳を中心に、本文全体の主旨や部分の理解を説明問題で問う、典型的な記述型読解問題である>。<また、全体の主題にかかわるような説明問題がよく出題されている点には注意を払っておきたい>という。
漢文の設問は<例年の傾向として口語訳中心の問題構成となっている>。
なお、<説明問題に関しては、解答欄の大きさから推定して、さほど詳細な説明が要求されているのではないようで、むしろ、多く記された情報をより簡潔にまとめるといったポイントを絞った要約力が問われているといえる>。
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京都大学は<現代文2題、古文1題の合計3題の出題がほぼ定着している>。つまり、漢文は出題されていない。
また、現代文の1問目は<文系・理系共通問題(但し設問は文系のほうが1問多い)>で、現代文の2問目と古文については<文系・理系で別問題になっている>。
なお、<2007~2013年度は文系と理系が別問題になり、理系も大問三題が必須となった>。
現代文は<評論や随筆の出題が多いが、小説が出題されることもある>。<出典は明治から現代にかけての作家、または評論家や各界研究者の文章で、評論や随筆、小説など幅広く取り上げられている>。内容は<哲学、社会、言語、文学論など多岐にわたっている>。
<京大受験生の水準に合った、適度に抽象性のある文章が取り上げられている>とのことだが、受験生の水準に合わせて問題文が選ばれているというのは逆で、「京都大学での教育内容・水準を理解・習得するのにあった文章」であるべきはないのか。
また、<婉曲的な表現や比喩表現が設問個所としてねらわれることが多く、そういった表現を客観的にとらえなおす力が要求される>という。なお、2002年度までは文語文が出題されていた。
古文は<和歌を含む文章からの出題が多い>とされる。
また、<近世文からの出題や、平安朝の文章、または時代が平安でなくとも、いわゆる典型的な中古文からの出題が比較的多い>。設問は<かなりの割合を口語訳問題が占める>。
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大阪大学は、文系では「文学部」と「人間科学部・外国語学部・法学部・経済学部」で問題が異なる。
前者(文学部)は<現代文2題・古文1題、漢文1題の出題が続いている>。これは東大と同じ構成だ。回答形式としては<ほとんどが記述問題である>上に、<説明問題が多いが、字数制限がないことが多く、設問の要求内容や解答欄の大きさをみて適切な量を判断し、書いていかなければならない>。
現代文の1問目は<論理的文章が出題される>。
内容は<文学に限らず人文科学全般(言語・歴史・思想・哲学・芸術・教育など)の評論が多い>。また、<書き取りが必出、これに部分把握問題と全体把握問題が組み合わされる>。
これに対して現代文の2問目は<小説からの出題がほとんどであ>り、<(1問目)以上に難度が高いことが多い>。<心情説明の問題は、描写状況から演繹して論述するという点で、受験生の文学的な素養が必要とされる>。
古文は、<時代は中古と中世が中心>であり、<ジャンルは多岐にわたっている>。<例年は有名出典が比較的多く、頻出箇所であることも少なくない>。
設問は<例年、口語訳や語彙、内容設問が設問の中心>で<和歌解釈も頻出している>。
漢文は<有名出典からなじみのない出典まで、さまざまな文章が出題されている>。<ジャンルも偏りはみられない>。また、<書き下し分・訓点・口語訳・内容説明を中心に設問が組み立てられている>。
一方、後者(文学部以外)の構成は<現代文2題、古文1題の計3題の出題>で、漢文は出題されていない。
現代文は<評論2題の出題である>。
内容は<哲学・思想系のものからの出題が目立つ>。また、<本文の主題を把握した上で論述させる設問が多>い。
古文は<出典は、半数くらいは入試では珍しいものが出題されている>という。
設問は<口語訳と内容説明が中心で、このほかには主旨、和歌解釈、文学史などが見られる。なかでも和歌解釈のレベルが高く、和歌の理解が大きなポイントとなっている>。
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名古屋大学は<現代文・古文・漢文各1題、計3題の構成である>。
現代文は<ごく最近出版・発表された文章からの出題が多く、ジャンルは社会論・文化論など多岐にわたるが、現代の問題にかかわるものが多い>。設問は<段落ないし全体の内容理解を問う説明問題が中心である>。
古文は<和歌を含む文章がよく出題されている>。設問は<内容説明、口語訳を中心に和歌の解釈が多く出題されている>。
漢文は<日本漢文や宋・明・清の文章も出されている>。
内容は<史話、思想的内容のものが多い>。設問について<例年、語句の読み、口語訳、書き下し文、内容説明、主旨(要約)という構成である>が、この中で最後の<全体の主旨を150字でまとめる問題は例年出題されている>のは他大学には見られない大きな特徴だ。
なお、このほかに小論文が課せられる。<例年は小問2問である>。解答形式としては<内容説明と意見論述出題されることが多い>。<課題文は論点が明瞭なものが選ばれている>。
<英語>
次に、英語を見てみる。国語より顕著な差が見られる。
東京大学は<例年大問5題で、読解、英作文、リスニング、文法・語彙と、「話す」以外のすべての英語力が試される出題である>。
大問1は読解問題で、1問目に要約問題が<毎年必ず出題されている>。2問目では<文法、独立した英文和訳問題になっている>。
大問2は英作文だ。1998年から自由英作文が取り入られ、以後、その比重が高まっている。近年は<与えられた英文の空所を20~30語程度で埋める形式のものや、与えられたテーマについて50語~70語程度で書くものが多い>。
そのテーマも「あなたが今までにした大きな決断について(2006年度)」や「今から50年の間に起こる交通手段の変化と、それが人々の生活に与える影響(2008年度)」、「あなたがいま試験を受けているキャンパスに関して、気づいたこと(2017年度)」、「新たに祝日を設けるとしたら、あなたはどのような祝日を提案したいか(2019年度)」等と多岐に渡っている。また、絵に描かれた状況を解釈し、英語で説明せよ、という出題もある。
大問3はリスニング問題である。<2001年度以降、(A)・(B)・(C)の3題の出題が続いている>。<放送内容は大きく分けて、講義形式のものと会話形式とがある>。
設問内容は、<2005年度以降、内容説明とディクテーションが定番になっていた>が、その後、ディクテーションが出題されないことがある反面、<図を用いた出題などが出題されることもある>。
大問4は文法・語彙問題で<不要語指摘と語句整序が主だったもの>となっている。<趣の変わったものとして><書き換え>や<派生語による空所補充>が出題されたこともある。また、<余剰語問題は、他大学にはない形式で、練習しようにも、その素材がない>。
大問5は<例年読解総合問題である>。<題材つぃては論説系よりも伝記・物語・随筆と言った文学系の者が多い>。
設問は<意味内容、適切な語句の補充といった各箇所の細かい理解を求めるものが多い>。
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京都大学は東大とは大きく異なる。
まず、構成が<読解問題2題、英作文問題1題という出題が基本的スタイルとなって>おり、シンプルだ。ただし、2016年以降は英作文問題が2題に分かれ、そのうちの1問が自由英作文という形式が増えてきている。
読解問題は<通常2題とも論説文となっている。>。<従来、下線部の英文和訳のみであることが多かったが、2015年度以降は内容説明問題も重視されつつあるよう>だ。内容は<科学や歴史、哲学に関するものがよく出されている>。
英作文は<2015年までは、大問3の中で2問の和文英訳が出題されていた>が、上述の通り、<2016年度以降は、(大問3の)和文英訳が1問に減り、(大問4で)自由英作文問題が追加されている>。
従来から京大は日本の大学で最も難しい和文英訳問題と言われており、<英語に直訳しづらい、こなれた表現の多い随筆的な文章が使われ>ている。
なお、リスニング試験が06年から医学部医学科で、07年から総合人間学部で課されており、12年には全学部でも出題されることになったが、13年以降に実施する学部は無くなった。
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大阪大学は「文・人間科・法・経済学部」と「外国語学部」で問題が異なる。これは、外国語学部が大阪外国語大学と統合したことで発足したことと関係があるのだろう。ここに学部の独自・主体性が垣間見られる。
前者(外国語学部以外)について、構成は<読解2題、英作文2題の計4題が定着している>。また、<読解のうち、1題は英文和訳のみ、もう1題は長文読解問題、英作文のうち1題は自由英作文、もう1題は和文英訳という構成である>。
読解の1問目は<例年、2つの英文のそれぞれの下線部和訳が課せられてきた>。<部分訳でも和訳箇所は比較的長く、文章全体の半分程度を訳すことが多い>。内容については<取り上げられる英文のジャンルは多岐にわたっており、抽象的な内容のものもある>。
読解の2問目は総合問題であり、<設問は空所補充、同意表現といった語句レベルのものと、内容説明、英文和訳、内容真偽といった内容把握力を試すものに二分されている>。
英作文の1問目の自由英作文は<制限字数は例年、70語程度となっている>。内容は<~に賛成か反対かを述べる」「~について自分の考えとその理由を述べる」「印象に残った経験を述べる」といった、自由英作文でよく見られる形式以外にも「外国人に日本の文化や言葉を理解させる」などのユニークなものまでバラエティーに富んでいる>。
和文英訳は<2問の出題が定着している>。<うち1問は文学部のみ別問題になっており、通常、他学部より高度で分量の多いものが課される>。
後者(外国語学部)は、「読解2題、英作文2題」に加え、「リスニング」が課される。このうち、読解の1問目と英作文の自由英作文は前者と共通である。
読解の2問目は前者と同様、総合問題となっているが<他学部と異なり、語句レベルの問題が出題されることはほとんどなく、内容説明と和文英訳という文章の記述が大いに求められる>。
和文英訳は<一連の和文中の下線部(3か所)を英訳するという形式>。<レベルで言えば文学部のみに課される和文英訳と同等の高度なものである>。
リスニングは<例年、まとまった量の英文を聞き、内容について日本語での設問に日本語で答える形式が多い。選択問題はない>。
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名古屋大学は<出題数は4題で、総合読解問題2題、会話文1題、英作文1題が続いている>。会話文が独立して問われるのが特徴的だ。解答形式は<英文和訳、内容説明、内容真偽、空所補充、語句整序、和文英訳、自由英作文など形式はさまざまだが、記述式が中心。内容説明は字数つきとなることが多い>。
総合読解問題・会話文問題は<論説文中心で、テーマは文化・社会・教育・科学など多岐にわたる>。<毎年発行の雑誌を出典とするなど、最新の話題を取り上げる傾向がみられる>。
英作文は<2017年度までは(大問4で)和文の部分英訳の形で出題されていた>が、2015年から自由英作文が課されるようになったのに伴い、<図表の読み取りに基づいて50~70語のパラグラフを書く自由英作文が出題>されるなど、<かなり大きな傾向の変化>がみられ、<今後もいろいろな形式の英作文が出題されることが予想される>という。

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