「準キャリ」と言う悪弊

 文科省(正確には旧文部省だが)のキャリアが他省庁に比べて頼りなく、能力も低いとして、これが三流官庁を体現する存在であるとされるのに対し、同じ文科省職員でもノンキャリアと言われる人達の評価は高い。各省庁にも同様の層の職員はいるが、文科省のそれは霞が関随一との評価を得るほどだ。

 それも当然であった。その背景に、他省庁はⅡ種と言われる試験区分合格者の中から、直接、職員を採用しているのに対し、文部省はその区分からの職員を自ら採用して来なかったことがある。代わりに主にⅡ種合格者から職員を採用してきた国立大学から優秀だと評価された者を転籍させていた。

 つまり、彼ら/彼女達は皆、ある程度の期間、実務に従事した経験や実績をもち、その間に人格や実務能力が高いと評価された者だったのだ。また、送り出す大学の事務局も、文科省に何人優秀な職員を送り出したかが評価の基準になっていた面もあり、どの大学も優秀な人材の派遣に躍起になった。

 こうして全国から「お墨付き」を与えられた職員が集められていたのだ。

 但し、この仕組みは選ばれた職員にとって必ずしも歓迎すべきでない面もあった。大学から選ばれたという名誉よりも、国立大学職員という地元の安定した就職口を得て頑張ってきたのに、突然、縁も所縁もない東京に派遣されることになったことに戸惑いを感じるのも無理はない。中には結婚からまだ日が浅いのに、妻と離れて単身赴任を余儀なくさせられた者もいる。そして、実際に赴任すると、それまでとはまるで違う質・量の業務を連日、深夜まで携わることになる。
 しかも、文部省での勤務経験をある程度積んだ後には、地元に戻る代わりに全国を異動することになるのだ。このような実態があることについては先輩等から聞かされ、赴任を悩む者も多かったはずだが、職務命令の名の下に半ば強制的に異動が行われた。そして、こうして全国から集められた優秀な職員のお陰で文部省は何とか日々の業務をこなすことができていると言っても過言ではない状況にあった。

 ところが、このような方法が大学法人化によって取れなくなった。従来は、地方国立大学の職員も全て国家公務員として皆、文部省の管轄下にあったため、その意向で人事を動かせた。しかし、法人化以降には職員は大学長によって採用され、当該大学法人職員の身分を有することになる。当然、職員の出向(所属する機関や身分が変わるので異動ではなくなる)には学長の判断・了解が必要となるが、学長は優秀な職員であれば文科省に派遣するより、幹部職員候補して学内に留めようと判断することになる。そもそも、厳しい運営を強いられている中、職員を外部に派遣する余裕などなくなっているという事情もあった。

 これには文科省も慌てた。かといって、法人制度下では大学に派遣を命じる権限もない。そこで遅ればせながら、他省庁同様にⅡ種職員を直接採用することとしたのだが、これが別の問題を惹起することになった。

 即ち、従来はⅠ種試験合格者(キャリア)とⅡ種試験合格者(ノンキャリ)には試験区分のみならず、新規採用の場が前者は省であるのに対し、後者は大学という違いがあった。そこに省が直接採用する区分がⅡ種の中に登場することになった訳だ。すると、その者達が「自分達は従来のⅡ種職員とは異なり、省に直接採用されており、その点ではⅠ種職員と変わらない。従って、他のノンキャリアよりⅠ種職員(キャリア)に近い位置づけであることを明確にする。」として「準キャリア(通称:準キャリ)」と自称するようになった。

 さすがに、表立ってこの呼称が使われることはないが、仲間内では「準キャリである自分達は…」と言う形でかなり使われていたようだ。実際、この呼称の存在は省内に限らず、OBにも知られており、それがもたらす影響、特に従来のノンキャリア層への影響を心配する声は少なくなかった。

 この新しい層は試験区分が同じⅡ種でありながら、大学から出向した者と自分達は違うと認識しているわけだ。上述のように、かつてのノンキャリア層が人格・実務能力を認められ、省内に異動・出向してきた者達であったことを踏まえれば、実績もない彼ら/彼女らの方こそ下に位置づけられるべきであろう。ところが、直接採用という一点のみを根拠にして逆にノンキャリアより上だと認識している。しかも、文科省自体が、彼らとノンキャリを別に扱うような対応をしているのだから始末が悪い。

 法人化から20年近くが経過する中で、さすがにこうした呼称はもう使われていないと思うが、形式の違いに基づいた意識の差はそう簡単に消えるものでもないのも事実だ。キャリアの能力が懸念されている中、これまでのような優秀なノンキャリア層を確保することが難しくなっている一方で、能力が高いとは限らないのにプライドは高い層が加わる事態が続くようでは文科省の将来を危惧せざるを得まい。

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