番外:さざれ石

 かつての文部省の多角形のビルの中庭には「さざれ石」が置かれていた。いうまでもなく、「君が代」の歌詞にうたわれている、あの石だ。

 まだ入省してからの日も浅いころ、先輩と中庭を歩いていると、「お前、知っているか。この石は年々大きくなっていて、地表に見えるのはこれくらいしかないが、地下にはずっと大きな塊があるんだぞ」と教えられた。「そんなバカな!」と思ったが、省内に君が代に歌われた石が置かれており、それを目にしたことに感銘した覚えがある。

 その後、文科省は庁舎改築のため、一時期虎ノ門を離れて、丸の内のオフィスビルに移転した。場所柄、中庭などない中で「さざれ石」はエントランス脇に置かれていた。規模は相当小さくなって、鉢に活けられていた形だった。残りの部分として地下にどれくらいの大きさが残されたのかが気にはなったが、当然ながら確認する術はなかった。

 現在では霞が関コモンゲートの一角に旧文部省当時と同等の大きな「岩」が置かれている。横には高札が立てられ、「国家に詠まれているさざれ石」として説明が記載されている。曰く
  「この石は学名を石灰質角礫岩と言う。石灰岩が雨水に溶解して、その石灰分を含んだ水が時
 には粘着力の強い乳状体となり、地下において小石を終結して次第に大きくなる。
  やがてその石が地上に出て、国家に詠まれているように、千代に八千代に年を経てさざれ石の
 巌となりて苔のむす、その景観誠にめでたい石である。
として、君が代の歌詞にも触れつつ、昔、先輩から聞いた話を裏付けている。また、
  「全国至る所の石灰質の山に産する石であるが、特にこの石は国歌発祥の地と言われる岐阜県
 揖斐郡春日村の山中にあったもので、その集結の過程と状態はこの石を一見してよく知ることが
 できる。
とも記し、その価値が述べられている。

 今や、省内でもその存在や由来を承知している職員は少ないのではないか。
 自分も国歌「君が代」は古今集に記載があり、薩摩琵琶歌にも歌われる歌詞の一節から大山巌が選んだと聞いていたので、鹿児島が発祥の地と思っていた(なお、横浜の妙香寺の境内に「国歌君ケ代発祥之地」の碑があり、薩摩が歌詞、横浜がメロディ発祥の地とされるのすら長く知らずにいた)ため、岐阜県との関係はこの高札で初めて知った。なるほど、揖斐川町には「さざれ石公園」があり、そこには時の総理大臣が揮毫した「さざれ石 国歌君が代発祥の地」の碑がある。そして、これは同地がさざれ石を産出することに加え、「君が代」のもととなった歌が詠われたことに由来するとのことだ。

 一般の方が文科省を訪れることはなかなかないだろうし、石自体、決して「バエる」ようなものではない。それでも、近くの虎ノ門ヒルズ等に足を運んだついでにでもこの「奇石」を目にして、君が代に思いを馳せて頂くのは一興ではないかと思いご紹介した次第。

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